現在、政府は、我が国の持続的な経済成長に向けて、「人材」を経済政策の最重要テーマとして位置付けています。少子高齢化による労働力不足を背景に、「人づくり革命」や「生産性革命」を重要政策として掲げ、企業も人材の採用や育成への投資、生産性向上に向けた取り組みを加速しています。
今回は、企業にとって重要性が高まっている「人材マネジメント」をテーマにその背景や課題、また、その課題解決手法として期待されている「HRテクノロジー」の活用についてお話していきます。
・人材マネジメントの重要性
経営における人材マネジメントの重要性が非常に高まっています。ここでいう「人材マネジメント」とは、採用、評価、配置や育成などを通じて、組織と個人のパフォーマンスを最大化することを意味しています。人材は「人財」と表現されることもありますが、金や物といった経営資源は使用することによって目減りする一方、人は様々な経験を積むことにより、その能力を最大限に高めることができる性質をもっています。人材マネジメントは、企業が人財という経営資源を積極的に活用できる環境作りを進め、社員のパフォーマンスを最大化し、結果として組織力の底上げと企業の業績向上に繋げることを目的としています。
この人材マネジメントが重要視されている背景には、人口減少と超高齢化による労働力人口の減少があります。
内閣府「令和元年版高齢社会白書」より
内閣府の「令和元年版高齢社会白書」によりますと、我が国の総人口は、2018年10月1 日時点で1億2,644万人、そのうち65歳以上人口は3,558万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)が28.1%となりました。加えて我が国の総人口は、長期の人口減少過程に入っており、2029年に人口1億2,000 万人を下回り、2053年には1億人を割って9,924万人となり、2065年には8,808万人になると推計されています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働力需給モデル(2018年度版)による将来推計」を一部加工
一方、労働力人口(15歳以上で,労働する能力と意思をもつ者の数)に目を向けてみます。2017年実績値の6,720 万人から、ゼロ成長シナリオ※1での推計では、2040年では、5460万人となり、約1,260万人の労働力人口が減少すると見込まれています。
経済活動はその担い手である労働力人口に左右されますが、人口減少・超高齢化に向けた流れが継続していくと、働く人よりも支えられる人が多くなります。これにより、国内市場が縮小していくと、投資先としての魅力を低下させ、イノベーションが生じにくい状況となり、経済成長率が低下していきます。このような人手不足という差し迫った現実を前に、若者、高齢者、女性や外国人材などの多様な働き手を受け入れ、そういった働き手の育成という点を含め、労働力の「数」と「質」の確保に取り組むことで、成長実現シナリオ※2に載せていくことが必要になっています。
※1 ゼロ成長シナリオ:ゼロ成長に近い経済成長で、性・年齢階級別の労働力率が2017年と同じ水準で推移すると仮定したシナリオ(経済成長と労働参加が進まないケース)
※2 成長実現シナリオ:各種の経済・雇用政策を適切に講ずることにより、経済成長と、若者、女性、高齢者等の労働市場への参加が進むシナリオ(経済成長と労働参加が進むケース)
また産業構造の変化により、人材マネジメントの方法も変わってきました。今は製造業を主流とした時代から、サービス中心の時代へと移っています。以前の製造業といえば「量産型マネジメント」であり、一律採用や教育を通じて、同じクオリティで一定の価値を生み出すことが重要でした。一方、現在の主流であるサービス業は、従業員一人ひとりの能力によって提供する価値が変化します。
つまり、高い価値を生み出せる人には、より高い価値を出してもらう、生み出す価値が低い人は、改善できるように、柔軟性のある「個別最適」を目指した人事施策が求められています。それに今では、製造業や卸小売業などでも、製品を大量生産するだけではなく、顧客ロイヤルティを高めるためにサービスの強化を経営課題としていて、全ての産業で、採用や育成を通じて従業員の付加価値を高める人材マネジメントが重要な時代になっています。
・人材マネジメントにおける課題
このように、重要性が高まっている人材マネジメントですが、実際の「成果」に結び付けられている企業は多くなく、そこには主に2つの課題があります。
1つめは、人事業務の非効率さです。人材マネジメントをより良いものにするためには、新しい施策を考え、実行しなくてはなりません。しかし人事部では、多くの事務業務を抱えており、日々その対応に追われています。人材マネジメントを改善するための時間を確保できていないのが現状です。
2つめは、データを活用できていないことです。効果的な人事施策を考え、実行するためには、それらの根拠となる組織や従業員に関するデータが必要不可欠です。しかし、多くの企業では、組織や従業員に関するデータがバラバラに管理され、集約されていない状況です。そもそも、データが残っていないような場合も多く、このような状況では、根拠に乏しい勘や経験に頼って判断するしかありません。
次回はこれらの課題解決として期待されている「HRテクノロジーの活用」についてお話します。